山形短期大学民話研究センター資料叢書『お糸唐糸』を民話研究センターで刊行しました。本書は、民話研究センター顧問の武田正先生が収集してガリ版で作成した原本を活字化したものです。「表紙」、「目次」、あとがき相当部分を紹介します。
故安部忠内翁のことなど
武田 正
安部忠内翁と出会ったのは、昭和三十七年のことである。僕の民話集の第一冊であった『卯の花姫』を所望され、その上で地域の民話を二三集めているから来てみてくれという、大変謙虚な申出であった。翁はその時すでに村内を歩き廻って民俗の調査をたんねんにノートにしていたのであった。また山形大学の後藤(利)助教授のすすめで、方言カードを作成する仕事に従事されていたのであるが、それにとどまらず、村内の民衆の生活を何でも記録しておこうとなされたようである。僕は早速翁のノートを整理して『瓜姫御と天邪鬼』という民話集を昭和三十七年八月にタイプ刷りで出して、大変な反響があった。次いで『鬼の骨』を翁との共編という形で昭和三十八年一月にタイプ刷りにして出した。同時に山宮広章氏を会長にお願いして、「米沢民話の会」を設立し、昭和三十七年八月から、毎月『米沢の民話』というタイプ刷りの会報を出し続け、二十五号(昭和四十年三月)を最後に「置賜民俗学会」に発展的解消をとげた。その間いつも僕らは安部翁から、尻をつつかれて仕事を続けた。しかし翁は昭和三十八年十月十一目に急逝された。
フイルムをもどすと、僕が生徒を二人つれて安部翁を訪れたのは七月頃のように記憶している。ともかく、ぎらぎらと夏の太陽が照りつける田んぼ道を、自転車をかってかけつけると、ひとくさり、民話を語ってくれた上に、「村の雰囲気を是非知って欲しい」といって、不自由な足を引きずって、八幡原まで案内してくれ、六地蔵や白髪明神、八幡神社、道祖神などを説明してくれたりした。翁にかかっては、村内の一木一草も民衆と深いつながりを持たざるを得ないと感じもしたものである。
僕の仕事はそれを整理し、何とか形にして残すことであった。ひかえめな民俗の話などが、当時の僕の耳に入らなかったのは、今にして思えば、取り返しのつかない残念なことであるが、あの時の民話が、僕に置賜の昔話を集めさせる力となったのである。
この小冊子『お糸唐糸』は、当時翁が発表した以外の、ノートに記し残されたものを整理し、合せて、九十一才の、翁も生前にお聞きしたという安部はつよ嫗から、最近テープに入れさせてもらったものを合せたものであるが、次の九編が安部はつよ嫗のものである。
(1)てんつ太郎(2)糠福と米福(3)三枚のお札(4)文福茶釜(5)狐女房(6)猿と蛙(7)鰹節売り(8)食わず女房(9)お糸唐糸
以外の十八話は翁のノートを筆写したものである。
なお翁の生前に発表されたものは、昔話のみに限定すれば次の通りである。
『瓜姫御と天邪鬼』に発表されたもの。「猿聟」「弘法大根」「瓜姫御と天邪鬼」「団子浄土」「狐と狸」「大歳の火」「あくとかくしの雪」「石芋」「そんぴん石屋」「糠福米福」「食わず女房」「三枚のお札」「お糸唐糸」「愚か娘」「なら梨とり」「オタタカ鳥」「姥捨」「八十一枚の田」「テデッポッポ」「弟切草」「炭やき長者」 二十一篇。
『鬼の骨』に発表されたものは、「蛇聟」「唄う猫」「カッコー」「屁たれ嫁」「長手の伊佐」(四篇)「トッキの藤兵衛」「あくびした狸」「きのこの化物」「長手の伊佐異説」(二篇)「法印と狐」 十四篇。
『米沢の民話』に発表されたものは、「大黒と茶釜」「狐さ恩返し」「逃げ帰った仁王」「馬鹿聟」「蛇聟」「猿の生胆」「猿の面は何故赤い」「狐とかわうそ」「怒った仏さま」「鶏の権現」 十篇。
以上である。話者であり、研究家であったことは本当にすばらしいことであったと考えられる。
翁が逝った後に三十数冊のノートが残された。方言研究メモ・昔話・村内の伝説・年中行事・民間信仰などである。そのノートを拝見する機会を与えられたのは幸であった。それらのノートの中から、まず遺稿第一集として「米沢の昔話」を此処にまとめることが出来たことはうれしいことである。次に年中行事・民間信仰・その他をまとめる予定である。
なお、この集に安部はつよ嫗の昔話を加えたのは、翁の昔話の中に嫗から聞いてノートしたものがあるが、まだテープのない頃のことで、語りがいくらかノートと違なるところがあるからで、しかも翁の隣家でもあることから、同村内の昔話でもあると考えてよいからである。
この集のための翁の家族の方々の温かい支援、安部はつよ嫗の協力に感謝する次第である。
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